「ゴンドラの唄」(ゴンドラのうた)は、「琵琶湖周航の歌」が作られる2年前の1915年(大正4年)に発表された歌謡曲です。
 作詞は吉井勇、作曲は中山晋平、新劇女優の松井須磨子により歌唱されました。
 作詞家の吉井勇は、当時の文豪森鴎外に心酔しており、この歌詞にも鴎外の翻訳したアンデルセンの「即興詩人」の一部を引用しています。

 

 この歌に見える「ゴンドラ(gondola)」とは、イタリアのヴェネツィアの運河で使われている幅の狭い小船のことですが、歌詞の中には全く出てきません。 

 

 この歌は元々、日本の芸術座第5回公演『その前夜』(原作ツルゲーネフ)の劇中歌として作られ、ヴェネツィアの船頭の舟歌という設定になっています。

 

 原作の「その前夜」の粗筋は、モスクワ貴族の令嬢であるエレーナが、ブルガリア独立運動の闘士インサーロフに理想の英雄の姿を見出だして恋に落ちます。

 二人は周囲の反対を押し切って結婚し、親を捨て家を捨ててブルガリアを目指して旅立ちます。

 ところが、その旅の途上のヴェネツィアで新郎のインサーロフが病を得て死亡してしまいます。

 妻のエレーナは夫の遺志を継いで独立運動を遂行するため単身ブルガリアに向かうという筋書きです。

 

 そして、日本の芝居の中では劇中のヒロインであったエレーナ(松井須磨子)が、新婚の夫インサーロフの突然の客死に際し、追憶と共にこの舟歌を歌唱するという筋書きになっています。
 蛇足ながら、ツルゲーネフの原作にはそのような場面はありません。

 

 歌詞の内容は、直截的に乙女に恋愛を勧めるもので、この舟歌に仮託してエレーナとインサーロフの境遇を婉曲に表現したものです。

 

 昔はロシアでも貴族の令嬢が親の承諾もなく外国人と恋愛結婚することなど論外でありました。

 また、日本では一般庶民でも自由恋愛などもってのほかと考えられていた時代でもあり、当時の恋愛に憧れる女学生を始め全国の乙女達の共感を得て、この斬新な歌が徐々に流行し、現在でも映画やドラマの挿入歌として歌い継がれています。

 

 100年前の松井須磨子による原唱レコードも残されていますが、余りにも雑音が多いので、今回は小林旭のカバー版でご紹介します。

 

 

[ゴンドラの唄]    [鳳尾船之歌]

 

いのち短し 恋せよ少女     生命短暫  去戀愛吧少女
朱き唇 褪せぬ間に        在朱唇尚未褪色時
熱き血潮の 冷えぬ間に    在熱血尚未冷卻時
明日の月日の ないものを   因為沒有明日歲月

 

いのち短し 恋せよ少女     生命短暫  去戀愛吧少女
いざ手をとりて 彼の舟に    攜手登上那艘船隻
いざ燃ゆる頬を 君が頬に   把熱頰貼上你臉龐
ここには誰れも 来ぬものを  因為此處無人會來

 

いのち短し 恋せよ少女    生命短暫  去戀愛吧少女
波に漂う 舟の様に        如同漂浮彼處的船
君が柔手を 我が肩に     以你柔夷搭我肩膀
ここには人目も 無いものを  因為此處無人窺探

 

いのち短し 恋せよ少女      生命短暫  去戀愛吧少女
黒髪の色 褪せぬ間に       在黑髮尚未褪色時
心のほのお 消えぬ間に     在熱情尚未熄滅時
今日はふたたび 来ぬものを  因為今日不會再

 

 


ゴンドラの唄 小林旭

 

 

少女易老戀難成,一寸光陰不可輕。
未覺池塘春草夢, 階前梧葉已秋聲。

 

盛年不重來, 一日難再晨。
及時當戀愛, 歳月不待人。

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